古典的な二重スリット実験(ヤングの実験)は、単一の光源から広がった光の「波面」を空間的に2つに切り分ける「波面分割(Wavefront Splitting)」という方法をとっている。しかし、この方法はスリットを通過しない大部分の光を遮断してしまうため光の利用効率が低く、何より2つの経路(スリットの間隔)が極めて狭い空間に限定されるため、経路の途中で光に別の操作を加えることが困難という制約があった。
これに対し、現代の量子力学の実験で主流となっているのが、ハーフミラー(ビームスプリッター)を用いた「振幅分割(Amplitude Splitting)」である。空間的に分けるのではなく、光のエネルギー(振幅)そのものを透過と反射によって2つに分割する。これにより、光を無駄に捨てることなく、2つの独立した経路を数センチメートルから数メートル単位まで大きく離して配置・制御することが可能になる。
「光子はエネルギーの最小単位であり、これ以上分割できない粒である」とされるが、ビームスプリッターを通過するときに光子が半分に割れているわけではない。
1個の光子をビームスプリッターに入射したとき、光子は「透過した状態」と「反射した状態」が50%ずつの確率で同時に存在する「重ね合わせ状態」になる。物理的に割れるのではなく、光子がそこに存在する可能性(確率の波)が2つの経路に分配される。
もし後続のルートに検出器を置いて測定を行うと、重ね合わせは崩壊し、必ずどちらか片方の検出器だけが「1個分」の光子を検出する。人間が観測するまでは「透過か反射か決まっていない波」として両方のルートを同時に進んでいる。
物理的なスリットを一切使わずに、2枚のビームスプリッターと2枚の通常の鏡を組み合わせることで、二重スリット実験と完全に等価な干渉実験(マッハ・ツェンダー干渉計)が可能になる。
第1のスプリッター(BS1)で分割された確率の波は、完全に離れた独立経路(ルートA・ルートB)を通り、第2のスプリッター(BS2)で再合流する。この合流点が二重スリットの「スクリーン」に相当し、片方のルートの長さを変えて位相をずらすと、波の強め合い・弱め合いによって、光子がどちらの検出器に届くかの確率がリアルタイムに変化する。
ビームスプリッターを用いた干渉計の最大の強みは、2つの経路が完全に離れている点にある。これにより、古典的な二重スリット実験では不可能だった、量子力学の本質に迫る極限の検証が可能となる。
片方のルートに検出器を置き、「光子がどちらを通ったか」を特定しようとすると、波の重ね合わせが壊れて干渉は瞬時に消える。しかし、その測定データを後から「完全に判別できないように消去」する仕組みを導入すると、一度消えたはずの干渉が再び復活する。経路が離れているからこそ、この情報の操作が精密に行える。
「光子が1個でも触れると大爆発する超敏感な爆弾」があるとする。これをルートAに設置する。もし爆弾が本物であればルートAを通る波はブロックされるが、爆弾が本物であるにもかかわらず「爆発が起きず、かつ干渉計のDET2が鳴る」というケースが25%の確率で発生する。
DET2が鳴るということは、波が両方のルートを通る重ね合わせ状態でなくなった(干渉が消えた=爆弾という障害物がルートAにある)ことを示し、かつ爆発していないということは光子はルートBを通ったことを意味する。つまり、「光子が障害物に一切触れていない(観測していない)のに、そこに障害物があることが100%わかる」という不気味な現象を証明できる。
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